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EP17「去る者、継ぐ者」

 -1/7 PM06:58 独立部隊地下基地ハンガー-

セレア「どういう事だよ、ゼオン!?」

 セレアが俺の服を掴んだ。

ゼオン「こうでも言わないと、あいつは絶対に何も出来ない。」
セレア「じゃあ、本当に渡すときはどうするんだよ?」
ゼオン「俺ならできる。本当に世界を救うなら。」

 セレアが服を離した。セレアは俺を睨んでこう言った。

セレア「そう何でも出来るなら、今からリネクサス潰しに行けよ・・・。
    エイオスの力ならできるだろ!!」
ゼオン「力があるから何もできないんだ!!」

 俺たちの叫び声がハンガーにこだましている。

ゼオン「俺は、最強の弱虫だ。
    力があるから何もできない・・・、何かをすれば何かが壊れる。」
セレア「・・・・。」

 言葉の意味を理解したセレアは俺から目をそらして黙り込んだ。

ゼオン「俺はもう後戻りできないんだ。先を行く者の足跡は、後を行く者が書き換えてくれる。」
セレア「豪く自身満々だな。」

 ようやく見せたセレアのいつもの顔。

ゼオン「当たり前だ、あいつは俺だからさ。」


 EP17「去る者、継ぐ者」


 -2019年 1/7 同刻 ARS本部 休憩室-

佑作「俺も行きたかったなぁ~。」

 ぐったりと寺本が机に倒れこんだ。

静流「私達は鳳覇たちが戻ってくるまで、ここを死守する任務がある。
   気を抜くなよ、寺本。」

 私は自動販売機からブラックコーヒーを取り出しながら忠告した。

かりん「そ~だよ佑作。あたしだって向こうの世界には興味あるんだから。」

 フルーツミックスジュースの缶を光沢のある爪で叩きながら言う。

佑作「神崎さんは未来の自分とか見たくないんですかぁ?」
静流「興味ないな。」

 それだけ言い残し、私はコーヒー缶を右手に休憩室を去った。
 私は今という時間軸から先も後も嫌いだ。未来や過去などの世界や自分などは想像したくもない。
もし想像できているのならば、今の私はARSには居ないだろう。
 そんな事を思いながら、私は初めてスティルネスと出会い、世界の全てを知った日の事を思い出していた。


 -同刻 ARS本部 地下機神・疑似機神ハンガー-

レドナ「悪いな、お前の大事なパートナーを利用して。」

 ディスペリオンとルージュを繋ぐコードを見ながら俺は鈴山に言った。

結衣「ううん、これもこの子の仕事だから気にしないで。」

 鈴山は笑顔で答えた。
 現在ARSは暁が欠けている状態で防衛するとなるとディスペリオンとスティルネスが要となる。
そのため、ルージュのエネルギーを利用して最優先でディスペリオンの修復作業が行われているのだ。
疑似とはいえ機神の力が2倍となって回復に回るため、すでにディスペリオンは80%修復されていた。

淳「お~い、鈴山く~ん、夜城く~ん!」

 後から佐久間が俺たちを呼んだ。

結衣「どうしたんですか?」
淳「茜さんを見なかったかい?
  捜してもどっこにも居なくってさ。」
レドナ「いや、見てないが・・・。」

 思い当たる節は一つある。

レドナ「あまり詮索しない方がいいと思う。
    信じていた父親が敵の主要機関の一人だったんだ、ショックは大きいだろう。」
淳「それは分かってるんだけどね・・・。
  実はワープゲートに異常が発生しているんだ。ちょっとコレを見てくれ。」

 手に抱えていた紙の束から1枚を取り出し、俺たちに見せた。そこにはグラフが沢山かかれてあった。
横軸が時間を表していることから、何かの時間ごとの変化だろう。

淳「一番左側が鳳覇君と榊君がワープした直後のエネルギー消費量なんだけど、数分後にまた同じ量のエネルギーが消費されているんだ。」
レドナ「つまり、暁と榊の後に誰かが向こうの世界に飛んだってことか?」

 佐久間は大きく頷いた。

淳「でもおかしいんだ、我々スタッフがゲートを警備しているし、カメラでモニタリングもしてある。
  けどこのタイミングで出入りしたものは何も無いんだ。」
結衣「観測機の不具合とかじゃないんですか?」
淳「それの可能性も0だ、誤差が無いように異なった10台の端末でこのエネルギー量を観測しているんだけど、全部同じ数値を出している。」

 他の紙も見せてくれたが、同じようなグラフが並んでいた。

レドナ「それはそうと、ワープゲートは往復分のエネルギーしかないんじゃないのか?」
淳「あぁ、そう聞いているけど。」

 佐久間が目を丸くした。

レドナ「なら、かなりやばい事なんじゃないのか?暁と榊が往復、つまり4回分のエネルギーがいる。
    誰かが後から行ったなら、往復分のエネルギーがそれに消化されてるってことにならないか?」
淳「あぁっ、そっか!」

 両手を叩いて淳が驚いた。

レドナ「大丈夫かよ・・・。」

 俺はやれやれと言った感じで呟いていた。

淳「それならなお更大変だ!エネルギーを急いで補充しないと!」
レドナ「この事は司令に伝えてあるのか?」
淳「あぁ、とにかく僕ら技術スタッフは今からゲートの整備とエネルギー補充に行くよ。
  でも茜さんが居てくれないと、心細いんだよなぁ・・・。」

 苦笑して佐久間が頭をかいた。

結衣「見かけたら鳳覇さんに言っておきますね。」
淳「頼むよ、鈴山君。それじゃ。」

 軽く手を振り、小走りでハンガーから出て行った。

結衣「私は鳳覇さんを捜してみるけど、夜城君は?」
レドナ「その必要はないな。」

 きょとんとした顔で鈴山が俺を見た。

レドナ「今までに起きたことを順序良く並べれば、俺の推測は正しいはず。」
結衣「夜城・・・君?」

 話を聞いて、俺は一つ引っかかることがあった。それの証明をするために、俺はある場所へと足を傾けた。


 -2071年 1/7 PM10:24 東京跡地-

 俺はゼオンに連れられて、ジープで東京が"あった"場所に連れて来られた。俺たちがここに来た時、戦闘が行われていた場所だ。
隕石が落ちてきたかの様に街が崩れ去っていた。
 夜空が広がり、明かりが少ない中、跡地からはまだ所々火が上がっていた。

ゼオン「見てのとおり、これがエイオスの力だ。」
暁「・・・・っ。」

 強大な力であることは知っていたが、この跡地からして破壊力はサンクチュアリ・ノヴァ以上であることは簡単に想像できた。

暁「これだけの力があって・・・何でリネクサスなんかに?」
ゼオン「これだけの力、っていうのは間違いだな。」
暁「何でだよ!リネクサスってのはこれほどの力があっても倒せないのかよ!?」

 自分自身の返答に怒る自分が悔しかった。

ゼオン「頑張れば、倒せるかもしれない。でも俺はそんなことはしない。」

 その姿を目に焼き付けているかのように、ゼオンは東京跡地を凝視している。

ゼオン「力があるから、何もできないでいるんだ。」
暁「どういうことだ・・・?」
ゼオン「俺が戦えば、それだけ犠牲者が増える。関係ある人も無い人も。
    犠牲を最小限に・・・いや、無くす為にはこうするしかないんだ。」

 ゼオンは表情を変えた。どこか、悲しみを隠しているような顔をした。

ゼオン「今の世界はリネクサスを倒すことを第一としている。
    もちろん、リネクサスを肯定し、争いを無くそうとするものもいる。」
暁「リネクサスの肯定!?」

 エルゼが言っていた新世界の創造、それを理想とするリネクサスを肯定する奴の気がしれない。

ゼオン「リネクサスは自身の理想を尊重するものには手を下さないことを約束している。
    既に南半球のほとんどの国はそれを尊重し、今やリネクサスの駒となっている。」
???「そう、世界は我々の手で徐々に作り変えられているのさ。時を長くしてな。」

 冷酷な声が背後から聞こえた。俺は怖くて振り返ることができなかった、その声が誰の声か知っていたから。

ゼオン「エルゼ・・・!!」
エルゼ「ちょっとした人からの情報でね、君が過去の君とお話をしているらしいと。
    できれば私も話に混ぜてほしいものだ。」

 俺もようやく振り返り、エルゼの姿を確認した。白い髪に赤い目、概観だけで恐怖を印象付けるその姿を。

エルゼ「そちらが、鳳覇 暁かな?
    初めまして、私がエルゼ・イファーレルだ。」
暁「・・・・。」

 怖くて返事が出来なかった。

エルゼ「そんなに恐れなくていいのだが。あの時電話越しで会話した時の様な接し方で構わないさ。」

 微笑んでエルゼが言う。

暁「なんで、未来のお前が電話で話した時のことを・・・?」
エルゼ「私は平行世界で起こっている全事象の全ての世界の自分の記憶を知っている。
    無論、君がサンクチュアリと出会う世界と出会わない世界の記憶も。」

 エルゼは足音一つ一つを楽しんでいるかのように、ゆっくりとこちらに歩いてきた。

エルゼ「君は気付かないか?私は君と電話で話た過去の出来事を知っている。
    つまりは今の君の世界を支配した私という存在がこの軸の平行世界にいるんだよ。」
暁「俺は未来を救えない・・・ってことか。」
エルゼ「いや、救っているさ。リネクサスの未来をね。」

 にやけた口元が、エルゼが与える恐怖感をさらに倍増させていた。

エルゼ「これも君がワープゲートの計画に携わってくれたおかげだよ。
    感謝するよ、ゼオン。」
ゼオン「そんなはずはないっ!」

 否定するゼオンの顔に焦りが見えた。

エルゼ「残念だが、これは本当のことさ。
    だからそのお礼として、我々は君がやってきた行為の大半を黙認してきた。」
ゼオン「くっ・・・!!」
暁「ざけんな!!俺はお前なんかに屈しない!!
  そんなでたらめなんて、信じるもんか!」

 逃げたしたい恐怖心をこれでもかというほど押さえつけ、俺はエルゼに怒鳴った。

暁「絶対に俺はお前を倒す!リネクサスをぶっ潰す!!」
エルゼ「ふふっ、それは楽しみだ。」

 エルゼの肩が小刻みに震えている。俺の挑戦をあざ笑っているに違いない。

エルゼ「では、その日を楽しみに待っているよ、鳳覇 暁。」

 エルゼは高らかに笑いながら俺たちに背を向けて歩き出した。

暁「待てっ!!」
エルゼ「おっと、君に一ついい事を教えてあげよう。
    今の過去と昔の未来、この2つを秤にかける時が来ている。
    説明しなくても分かるね。」

 エルゼが俺たちが来た方向を指差した。

ゼオン「リネクサスの艦隊!?」
暁「てめぇっ!!」

 俺は無我夢中で走り出し、エルゼに向って力を込めて握った拳を上げ、その頬をぶん殴る。
だが、俺の腕はエルゼの色白の細い手で受け止められていた。

エルゼ「ドライヴァーはドライヴァーらしく戦わないとね。」
暁「!?」

 エルゼの上空に浮かび上がる蒼白い円陣。

エルゼ「来るがいい、エデン。」

 円陣の中から現れる金色の機体。神様が具現されたようなその姿は、煌く光でその輪郭を捉えることは出来なかった。

ゼオン「暁、下がってろ!エイオス!!」

 ゼオンの上空から白銀の翼、エイオスが舞い降りる。

エルゼ「おっと、私は戦いに来たわけではない。
    ただ地上を通って帰ると危ないから、上空から帰りたいだけさ。」

 人間では考えられないほどのジャンプで、エルゼはエデンと呼んだ機体のコクピットへと乗り込んだ。ハッチを閉めると、そのまま雲の中へと消え去った。

暁「あれがエルゼの機神・・・。」
ゼオン「いや、エデンもコイツと同じ魔神機だ。
    それよりも向こうが危ない、急いで向うぞ!」

 エイオスが差し出した手に俺はよじ登った。そのまま俺をコクピットに入れると、美しい6枚の羽を羽ばたかせ、エイオスは空へと舞った。
いつもとは違い、エイオスの背中に円状についていた羽根は半円へと分割された。


 -2019年 1/7 PM07:10 ARS機神・疑似機神特別研究室-

 俺はすたすたと足を速め、ハンガーよりも下の階の研究室へと向った。

結衣「ここ、研究員以外立ち入り禁止だよ?」

 張り紙を鈴山が見るも、俺はそれを無視して自動ドアの前に立った。

レドナ「この先は危ない、鈴山は来ないほうがいい。
    戻って武装隊をよこすよう司令と副司令に伝えてくれ。」
結衣「武装隊!?」
レドナ「詳しい話は後で分かる、頼んだぞ。」

 足を一歩進めた。自動ドアが開き、その中へと入った。
 長い廊下が続き、その先にある部屋のドアを蹴り開けた。

レドナ「動くな!」

 俺は懐に隠していた銃を構えて叫んだ。俺の予想は的中していた。

茜「・・・・。」

 暗い部屋の中で端末を操作している鳳覇 茜がそこに居た。

茜「ここは関係者意外立ち入り禁止のはずだけど?
  迷い込んできたのかしら?」

 鼻で笑いながら、鳳覇は椅子から立ち上がった。

レドナ「いや、関係者だからここに来た。」
茜「どういう関係か、聞きたいわね。」
レドナ「単刀直入に言ってやる、ワープゲートを通過したのはお前だな。」
茜「何ですって?私がワープゲートに?」

 悪魔でしらを切る気らしい。

レドナ「暁がゲートを通過するという大事にも関わらず、お前は姿を現さなかった。」
茜「あの時はゲートの管理で私も忙しかったのよ。」

 予想通りの言い訳が来た。

レドナ「確かにゲートの管理で忙しかっただろうな。自分が行くワープ場所設定をするからな。」
茜「どういうことかしら?」

 俺はゆっくりと鳳覇に近づいた。俺が構える銃の銃口は頭を完全に捉えている。

レドナ「佐久間の話によれば、暁と榊がワープした分のエネルギー消費があったらしい。」
茜「誰かがワープして戻ってきたっていうこと?」

 とぼける鳳覇を俺の赤い目は凝視していた。

レドナ「吉良司令は俺と暁に今は往復分のエネルギーしかないと言っていた。
    だが、その言葉の意味は暁と輝咲が行くと仮定してのエネルギー量を指していた。」
茜「つまりワープゲートは2人が往復、つまりは4人が行くか戻るかのエネルギーがあるということ?」

 俺は黙って頷いた。

レドナ「佐久間の反応を見ると、どうやら往復分と言う言葉の意味に相違があったようだな。
    そこから簡単に誰かが往復したと言う推測を立てるのは妙じゃないか?」
茜「仮に私が行ったとして、私が何のメリットがあるっていうの?」

 一瞬鳳覇の顔に焦りの色が見えた。

レドナ「お前は一人で往復することによって、2人を帰られなくした。
    全ての理由はここにあるんじゃないのか?」
茜「で、でも私の姿は誰も見ていないのよ?」
レドナ「壁に耳あり障子に目ありって諺があってな。」

 俺は一か八かの賭けに出た。賭けは大当たり、鳳覇は自分の白衣の中から銃を取り出した。

茜「聞いたのね、私が研究員達に口止めしたのを。」
レドナ「やはり、そうだったのか。」
茜「・・・・!!」

 鳳覇の驚いた表情は、俺の勝ちを表していた。

レドナ「俺はただ諺を言っただけだ、自分で墓穴を掘ったな。」
茜「夜城!!」

 鳳覇が銃を発砲した。俺は咄嗟に机の影に隠れた。

レドナ「一つ教えろ、お前は未来で何をしていた?」
茜「いずれ分かるわ。リネクサスもARSも、あらゆる武力が無くなる世界をね。」

 再び銃が発砲された。隠れている机の上のパソコンに弾丸が当たり、煙を上げた。

レドナ「第三勢力に手を貸すとでもいうのか!?」
茜「言ったでしょ、いずれ分かるわ。」
レドナ「待て!!」

 俺も銃を発砲した。肩に命中したが、鳳覇は別の出口から研究室を出て行った。ドアが閉まり、銃声が鳴る。
追いかけようとするも、そのドアは外側から鍵を壊されていた。

武装隊員A「何があった!?」

 俺が入ってきたドアから重武装をして大きなシールドを持った隊員が5人入ってきた。
きっとさっきの銃声が聞こえてきたのだろう。

レドナ「鳳覇 茜が黒だ。向こうに逃げたが、外から塞がれた。」

 俺は親指で鳳覇が逃げたドアを指差した。

武装隊員B「そこをどいてくれ。これで開けよう。」

 隊員の一人が持っていた大きな1.5mほどのバズーカを構えた。俺は急いで付近の机の下に隠れた。
弾丸が空気を割く音と共に大きな爆発音が鳴り響く。鼓膜が破けそうなほどの空気の振動に頭をくらくらさせながら俺は立ち上がった。

武装隊員A「君はすぐにハンガーに行って機神で待機していてくれ、司令からの伝言だ。」
レドナ「分かった、こっちは任せる。」

 まだ煙が充満している部屋を逃げるように急いで、俺はハンガーへと向った。


 -2071年 1/7 PM10:50 独立部隊地下基付近地上空-

ゼオン「セレア、すぐに機人部隊を出せ!」
暁「俺も戦うぜ!」

 通信モニターに映るセレアに向って俺は言った。

セレア「もう部隊は配置してあるよ。
    暁緋はまだハンガーの中だから・・・・ぐぅっ!!」
ゼオン「セレア!?」
暁「もう戦闘が始まってる!」

 正面モニター越しに広がる光の光線が飛び交う様子を見た。

ゼオン「暁、しっかり掴まってろ!」

 言われるがままに、俺はゼオンが座っている座席の後にしがみ付いた。物凄い重力の変化が感じ取られた。
Gの凄さというのを初めて知ったときだった。

ゼオン「エイオシオン・ノヴァッ!!」

 エイオスの翼が光り、サンクチュアリ・ノヴァと同様の色の粒子を放つ。それは一瞬にして光線となり、戦場に突き刺さった。
大きな爆発が起こり、あたり一面火の海になった。
 俺は椅子の後からその様子を覗いた。しかし、すぐに正面モニターの景色が変わり、体が下から押し上げられる感覚がした。
どうやら急降下をしているようだ。

ゼオン「ここの下がちょうど地下基地になる。ハンガーに行って暁緋を取って来い。」

 エイオスは地面に着地すると同時に、コクピットを開けた。ゼオンが半ば強引に俺をエイオスの手の上に乗せる。
地面に俺が立つのを確認せずに、再びエイオスは白銀の翼を広げ、戦場へと向った。

暁「急がないと・・・!」

 俺は地面にあるハッチを空けようと、その取っ手に手をかけた。その時、地面が大きく振動した。

暁「!?」

 見ると、真っ赤な機体が地上からリフトアップされていた。その姿は間違いなく暁緋だった。
 同時にポケットの中の携帯が鳴る。着信音は爆発音でかき消されていた。

暁「もしもし!?」
輝咲「暁君!今セレアさんから連絡があって、暁緋を地表に上げたよ!」
暁「サンキュー、輝咲!」

 俺は携帯を閉じて暁緋に乗ろうとした。

輝咲「ごめん・・・また私、暁君を戦いに仕向けるようなことしちゃって・・・。」

 呟くように言ったその言葉。運良くこの騒音の中で聞き取ることが出来た。

暁「気にすんなよ、そっちは頼んだぜ!」

 輝咲の返事を聞かずに、俺は通話終了ボタンを押して真紅の機体に駆け寄った。


 -同刻 独立部隊地下基地ハンガー-

 通話終了の音が鳴り続ける携帯電話を、私は耳から話すことなくハンガーに一人立っていた。

輝咲「・・・・。」

 私は自分のしてしまった事を考え直していた。
 優しすぎる暁君に、また戦いを押し付けるような事をしてしまった。昔は、ただ悪いことをさせてしまったという後悔しかなかった。
でも、今はそんな気持ちよりも、頼もしい暁君で居てくれる事が嬉しかった。

輝咲「頑張って・・・暁君。」

 それだけ言うと、私は携帯をスカートのポケットに入れた。

梓「輝咲ちゃん、早くシェルターに!」

 ハンガーの向こうで先生の声がこだました。

輝咲「今行きます!」


 -PM11:02 独立部隊地下基地付近上空-

暁「はぁっ!!」

 暁緋の持つビームの剣がエインシード2機を真っ二つに切り裂いた。2機の腰から上が地面に落ちて爆発する。

セレア「くそっ、数が多すぎる!」
ゼオン「俺は上空部隊を叩く。そっちは地上部隊を・・・!?」

 突然通信モニター越しのゼオンが何かを目で追った。その正体はこちらのレーダーにも映っていた。
上空に現れる巨大な敵影。その戦艦のような巨体には見覚えがあった。

暁「まさか・・・ヘカントケイル!?」
ゼオン「エルゼめっ・・・、ナーザまで連れて来やがったか・・・!!」
ナーザ「お前達ごとき、私で十分すぎる。」

 巨体の四方八方からビームが放たれる。リネクサスも俺たちの部隊も関係なく、ビームは放射された。

ゼオン「俺が相手だ!!」

 ヘカントケイルの五分の一にも満たないサイズのエイオスが、巨体の前に立ちはだかった。

ナーザ「ゼオン。いや、鳳覇 暁。お前は我々リネクサスに勝つことは出来ない。」
ゼオン「その事実を覆してやる!!行くぞ、エイオ――。」

 ゼオンの言葉が途切れた。同時にエイオスが地面にまっさかさまに落下していく。

セレア「ゼオン!!」
ナーザ「お前が裏切っている事は重々承知の上で我々は事を進めてきている。
    無論、お前が戦いを挑んでくることも想定の範囲内のこと。手は打ってある。」
ゼオン「うっ・・・・!!」

 モニター越しに映るゼオンの顔が苦痛に歪む。

ナーザ「私がこの鍵を持っている限り、お前は二度と立ち上がることが出来ない。」

 ナーザの手に小さな機械装置が握られていた。

ゼオン「俺の・・・体に、何しや・・・がった・・・!!」
ナーザ「お前の体はこのヘカントケイルに近づくと擬似的な電気ショックが流れる。
    つまりお前は私に近づくことはできない。」

 ヘカントケイルは上空からゆっくりと降下しだした。

暁「ゼオン!!」

 暁緋を地面に仰向けに倒れているエイオスの隣へと向わせた。ハッチを開け、エイオスのコクピットへと飛び乗った。
あまりにも高い位置から飛び降りたため、足が痛んだが、今はそれどころではない。

暁「ゼオン!俺がエイオスを使う!」

 エイオスのコクピットが現れると同時に、俺はその中に乗り込んだ。
 ぐったりとしたゼオンを椅子から降ろして、俺が操縦席に座った。

暁「動け、エイオス!!」
ゼオン「無理だ・・・。」

 両側のレバーをがちゃがちゃと動かす俺に、ゼオンは呟いた。

暁「なんでだよ!エイオスが俺の存在を認めれば、俺もコイツのドライヴァーになれるんだろ!?」
ゼオン「そうでも言わないと・・・お前は俺を殺せないだろ・・・?」
暁「!!」

 掠れたゼオンの声が2人きりのコクピットに響く。

暁「お前・・・まさか!!」
ゼオン「新たなドライヴァーとなるためには・・・、前のドライヴァーが死ななくちゃならない・・・。
    それも、その機体の中でな・・・。」

 俺は全てを悟った。ゼオンは本気で俺にエイオスを託そうとした。だが未来の俺を殺してまで託す価値があるのか。
俺にそんな疑問を与えないために、ゼオンはあえて嘘をついた。そして後戻りできないこの状況が来るのを待っていたんだ。
今俺がゼオンを殺すのをためらえば、この世界の未来が終る。ゼオンを殺せば、未来は救われる。
 考えている中、ゼオンはそっと俺の手に冷たい鉄製の物を置いた。グリップのざらざらした感触、間違いなくそれは銃だった。

暁「ここでお前を殺せって言うのか・・・。」
ゼオン「それしか手はない・・・ぐっ!!」

 ゼオンが血反吐を吐いた。口の周りが赤く染まる。

暁「そんな・・・そんなこと、できるわけねぇだろ!!
  俺はお前なんだぞ!?自分で未来の自分を殺せって言うのかよ!!」
ゼオン「今の状況を考えろ!!」

 力なくゼオンが俺のARSの制服の襟を掴んだ。

ゼオン「俺のそういう優しい所が、未来を壊したら洒落になんないだろ・・・。」

 苦しみを堪えて、ゼオンが俺の目を見つめながら言った。

暁「暁・・・。」

 俺はゼオンと呼ぶことも忘れて、自分の名を呟いていた。

ゼオン「もう俺は十分生きてきた、ここで死んでも悔いは無い。
    それに、エイオスをお前に託すと決めたときから、この時を覚悟してきた。」
暁「そんな逃げるようなことすんなよ!お前がしてきたこと、償わないといけないだろ!!」

 俺の目から涙がこぼれた。

ゼオン「死ぬことが俺の償いだ・・・。俺は最強の弱虫だからな・・・。
    でも、お前は違う・・・ぐはっ!」

 再びゼオンが血反吐を吐いた。苦しむ声が俺の耳に鳴り響いた。

ゼオン「俺の最後は、俺自身の手で葬ってほしい・・・ぐっ!」
暁「暁!!」

 目が半開きになり、とうとう末期を迎える事を示唆していた。

ゼオン「はやく・・・・暁!!お前と俺の未来を救え!!」
暁「っ・・・!!暁・・・!!」

 目から涙が溢れる。銃を握る手が震えた。目を思いっきり瞑り、トリガーに人差し指を回した。
銃口はゼオンの頭に突きつけられた。

暁「必ず・・・必ず俺が未来を守ってやる!!」
ゼオン「撃てぇっ!!鳳覇 暁!!」
暁「うああぁぁっ!!」

 俺は目を瞑ったままトリガーを引いた。鳴り響く銃声、火薬の臭いが立ち込める。
その銃声をかき消すかのように、俺は馬鹿みたいに叫び続けた。

ゼオン「暁・・・お前の未来を途切れさせるなよ・・・。」
暁「・・・っ。」

 ようやく俺は目を開けることが出来た。視界に広がる頭から血を流す自分の姿。

暁「暁・・・お前の思い、俺が受け継ぐ!!」

 俺は再びエイオスの搭乗席に座り、レバーを握り締めた。

暁「エイオス!!」

 同時に俺の頭の中に膨大な情報が流れ込む。アルファードの時とは全く違う、もっと恐ろしく強大な存在の肯定。
こみ上げてくる力、抑制することを俺自身が拒んだ。

ナーザ「ドライヴァーが変わったか。」
セレア「暁・・・。」

 正面のモニターには、地上に立ち上がるヘカントケイルの姿があった。倒すべき存在を目に焼きつける。

暁「リネクサス・・・、俺が、俺の存在が、お前達を打ち砕く!!」

 エイオスの羽を広げ、巨大な存在に白銀の想い、受け継いだ魂をぶつけるために、炎立ち込める空に飛翔した。

暁「行くぜ、エイオスッ!!」


 -EP17 END-


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